『大いなるもの』

海底を漂う夢を見る
暗くて 腐臭のする海だ
耳に聞こえるのは何かの足音
いや あるいは鼓動かもしれない

星辰の光も届かない深海
その底を海藻の切れ端か魚の死骸のように漂っている
ふと 淡い光を感じて目を向けた
そこには ぼんやりと光る 古ぼけた都市があった

海底都市の中を漂う 歩く術はない
どこの国の どの時代にも合わない様式の建造物が立ち並んでいた
建物のところどころに かつてここに棲んでいた者たちを描いた壁画のような絵があった
人のようでもあり 魚のようでもある どことなくおぞましさに満ちた絵だった

鼓動が聞こえる 太鼓の音のような 全身を震わせる音だ
近づいて来ている いや 違う
こちらが向かっているのだ
近づくたびに全身が粟立つが 抗う術はない

これは夢だ 抗う理由もない
どうせなら 最後まで見てみよう
好奇心が勝った

海の底に 呼吸のような海流が渦巻く
葉も枝もない樹木のようなものが 視界を埋めつくさんばかりに垂れ下がっている
樹木の幹ような無数のそれらが 海流に押されて揺らぎ うねる
その幹のカーテンの隙間から わたしは見た

いや 見られ た? 覗か れ て 暴 かれ た?
彼は 眠って いる だというのに
目が合った あってしまった

招かれ 誘われ 底より深い場所に
ここは寝所だ おおいなるものの
ふるふぶるしき宮殿なのだ

立ち入るべからず 眠りを妨げるべからず

偉大なる存在に 魅入られたくないのなら