『大いなるもの』
海底を漂う夢を見る
暗くて 腐臭のする海だ
耳に聞こえるのは何かの足音
いや あるいは鼓動かもしれない
星辰の光も届かない深海
その底を海藻の切れ端か魚の死骸のように漂っている
ふと 淡い光を感じて目を向けた
そこには ぼんやりと光る 古ぼけた都市があった
海底都市の中を漂う 歩く術はない
どこの国の どの時代にも合わない様式の建造物が立ち並んでいた
建物のところどころに かつてここに棲んでいた者たちを描いた壁画のような絵があった
人のようでもあり 魚のようでもある どことなくおぞましさに満ちた絵だった
鼓動が聞こえる 太鼓の音のような 全身を震わせる音だ
近づいて来ている いや 違う
こちらが向かっているのだ
近づくたびに全身が粟立つが 抗う術はない
これは夢だ 抗う理由もない
どうせなら 最後まで見てみよう
好奇心が勝った
海の底に 呼吸のような海流が渦巻く
葉も枝もない樹木のようなものが 視界を埋めつくさんばかりに垂れ下がっている
樹木の幹ような無数のそれらが 海流に押されて揺らぎ うねる
その幹のカーテンの隙間から わたしは見た
いや 見られ た? 覗か れ て 暴 かれ た?
彼は 眠って いる だというのに
目が合った あってしまった
招かれ 誘われ 底より深い場所に
ここは寝所だ おおいなるものの
ふるふぶるしき宮殿なのだ
立ち入るべからず 眠りを妨げるべからず
偉大なる存在に 魅入られたくないのなら
今朝は とてもいい天気
車 飛ばしてお出かけ
急に横からビチャッと
フロントガラスに 運が付いちゃった
一瞬落ち込んだが
拭き取れば大丈夫
今度は何か石ころでも
当たった訳でも無いのに
いつの間にかフロントガラスに
ヒビが
変だなぁと思いながら
また落ち込んでしまった
しかし よく見たら
蜘蛛の交差点が出来ていたのでした
『自然のオーケストラ』
風の中を歩いて 耳を澄ませる
すれ違う人の足音が耳を打つ
どこかへ急ぐ車の走行音が聞こえる
声高に吠えるチワワの声が響く
土手の階段に座して 耳を傾ける
草木の揺れる音が耳を打つ
川のせせらぎが聞こえる
鳥のはばたく音が響く
青空を 白と灰の雲が横切っていく
耳元を 風がびゅうびゅうと過ぎていく
ふと 雲の流れる音が聞こえて
散歩中のBGMが完成した
『その衝動は拷問に似て』
殴りつけられるような創作衝動に駆られるときがある
けれど そういう時に限って創作活動にノれない
頭の奥が凝り固まって 濃い霧がかかって
電撃的なひらめきも 凡庸な展開も 一切降りてこない
自分の心に どれだけペンを突き立てても
血反吐さえ涸れて 言葉が生み出せない
無味無臭の虚無の中にうずくまって
パソコンの前で思考を止めてしまう
だというのに 頭に声が響く
「さあ、創れ」と 無慈悲な声が
焦燥に身を灼かれる 思考が迷走する
書いては消して 書いては消して
まるで拷問のように 続く 続く 続く
これも その産物
これは そんな詩
『Vomit』
血反吐を吐いている
ペンの動きが鈍い時はいつもそうだ
心を抉って 自分の奥底を抉り出して
何か 描き出せるものはないかと探っている
自分の心に ナイフを ペンを突き立てて
なんども なんども 突き刺して中身を暴いて
そこから溢れた血液や汚泥に似た何かをインク代わりに
紙に叩きつけるようにして書き殴る
叫び出したいほどの感情を 魂と一緒に吐き出して
納得できなくて ペンをぐしゃぐしゃに走らせる
黒い線の塊が こんがらがった自分の心を表していて
それがあまりにも不格好で イライラして 紙を握りつぶして壁に投げつける
他の誰かがどうかは分からない
だけど ぼくが何かを創る時 そういうことは往々にしてある
『心に囚われている。』
他人が どうしようもなく羨ましくなる時がある
たくさんお金を持ってていいな
たくさん友だちがいていいな
たくさん趣味があっていいな
どうしようもなく妬ましくなることがある
なんであいつがちやほやされるんだ
なんであいつに可愛い彼女がいるんだ
なんであいつの方がみんなに認められるんだ
どうしようもなく死にたくなる時がある
ドラマやアニメを見ている時
観葉植物に水をやっている時
家族や友人と会話をしている時
ぼくらは 羨望に苛まれている
ぼくらは 嫉妬に毒されている
ぼくらは 希死感に侵されている
ぼくらは どうしようもないほど――、
『強迫性無謬症候群』
小さな劇場のそで
閉じた幕を内側から見つめる
幕が上がる時を幻視して
全身が委縮する
心臓が早鐘を打つ
見落としはないか 誤りはないか
胃が 食道が収縮する
もっとできることが やるべきことがあるはずだ
……わかっている
これは 捨て去るべき焦燥で
過大に膨れ上がった幻影だとわかっている
それでも この小さな脳と心臓は
幻の恐怖に囚われ 苛まれる
開演のブザーが鳴り響く
――ああ 幕が上がってしまう
『How I feel now』
冒険者になる
夢と富と名声のために
仲間たちと 作戦を練る
探索者になる
ふるぶるしき神々の掌の上から逃れるために
同じ境遇の人々と 情報を共有する
超能力者になる
日常と非日常 信頼と裏切りに決着をつけるために
同僚たちと 意見を交わし合う
名探偵になる
事件の真相を知るために
かけがえのない相棒と 議論する
つまり 何が言いたいかというと
TRPGがやりたい ということなのです
『かたりかたりと』
風が鳴る
ふわり ふわりと
バイクが鳴る
ぶおん ぶおんと
雨が鳴る
しとり しとりと
足音が鳴る
ぱちゃり ぱちゃりと
喉が鳴る
ごくり ごくりと
心臓が鳴る
どくり どくりと
当たり前の音の中に生きている
うん 今日も生きている
『夜陰に闊歩す』
夜道を照らす街灯は 舞台を照らすスポットライトに似ている
そんな考えが思い浮かんだとある日から
街灯の明かりを避けて 夜道を歩くようになった
だけど その理由は定かではない
スポットライトを浴びるような輝かしい人生じゃねぇなと思ったからか
はたまた 主役だなんだと持て囃されて生きるのは恥ずかしいと思ったからか
ただ一人 照らし出されることをつるし上げられているように感じるからか
あるいは 単に光を嫌う陰キャの性質故か
理由は定かではないけれど 街灯は避けるのが癖になっていた
だから 闇のとごる川べりを 暗がりのはびこる路地裏を
我が物顔で 闊歩するのだ
猫のように 狸のように
影のように 夜風のように
妖怪のように 幽霊のように
『星天に眠る』
砂の絨毯に腰を下ろして
星降る空を見上げる
ひとつ ひとつ 星を結んで
夜空が語る物語に耳を傾ける
くまの親子が並んで歩き
その傍らに獅子が寝転がる
双子と狩人は川辺で踊り
英雄は 美貌の乙女を見る
輝きの原に 物語が宿る
星の紡ぐ物語に 心が躍る
跳ねた心が 夜空に揺蕩う
優しく光る星景に 静かに目を閉じる
そろそろ眠ろう 星空のベッドで
天の川のせせらぎを 子守唄にして
『ともに』
本を開くように 扉を開ける
冷えた夜風が頬を撫で 夜の天蓋が私を見下ろす
言葉をちりばめるように 足を送って
世界を創る旅に出る
文字が踊る 宙を舞う桜のように
言葉が輝く 澄んだ星空のように
文字が躍る 川面を跳ねる魚のように
言葉が気取る 新しい靴のように
物語と歩く 友人のように
物語を添える 鼻歌のように
物語に沈む 午睡のように
朝焼けに追われる星を見て 私は踵を返す
そうして 本を閉じるように 扉を閉める
さあ 世界を綴る 旅に出よう
いつまでも追いかけられるオモチャのネズミの気持ちになってみた
SOSの発信源は
ぎらついた目に
日々追われて 怖い 怖い
次第に裂けて
頼みの綱はヒモだけ
ヒモも段々短くなって
やばいことに
あれ 気付いたら結ばれて
ヒモが長くなってる
助かった
そしてまた
あのぎらついた目に
いつになったら解放されるのか
ボロボロだが体は硬いのが自慢
強すぎるのも たまに傷
弱いよりはいいか
最近は楽しくなってきた
食べられることもないし
奴はやたらに顔は可愛い
身体も柔らかい
液体みたいに素早く動いて
私を仕留めようとする
朝日が昇る
そしてまた
夢見心地
蝶々のような
羽は付いてるから
空を自由に飛べるはず
そんな夢をみながら
突然 持ち上げられて
誰かの口の中へ
パリッとして
口の中でジュワっとして
頬がとろけるよう
幸せを運ぶ
食物の連鎖
レンズ
無難P
レンズを覗くと ちがう世界が繋がるね
レンズの向こう側には 虹色の世界がまっていて
赤色にも 黄色にも 橙色にも 染まってく
綺麗だね きれいだな~
景色を見たあと ボタンを押して
世界をセピアに染めるんだ
古くて新しい 不思議な世界が広がるよ
不思議だね ふしぎだな~
カメラの数だけ 世界が変わるよ
だから 今日もレンズを覗いて
知らない世界を見てるんだ!
ツバメの子
無難P
小さな宿に四兄弟 ツバメの子らが鳴いている
ピーチクパーチク音奏で まわりは軽く合唱会
あまりにピーチク鳴くもので
見上げてみれば 親来たる
力強く声あげて 口を開いてアピールだ
「早くちょうだい」と言わんばかりに
重なる声は 歌合戦
生きるための音鳴らし
ピーチクパーチク にぎやかだ
今はまん丸 羽生えて
親と変わらぬその姿
見届け残ったお宿には 四兄弟の居た名残り
来年 帰って来たのなら
「お帰りなさい」と言おうかな
キラキラ
無難P
大好きな人をはじめて見たとき
とても キラキラ輝いていた
頑張っていて 一生懸命いまを生きて
未来を見すえている人
そんな人と 一生のうちに出会えてよかった
ろうそくの灯が消えて 暗く幕をはった心に
キラキラなイルミネーションを 点してくれた
クリスマスを忘れた心に 楽しい記憶を思いだして
心がぽかぽか温かい
ありがとう
キラキラを分けてくれて
もう少し 私も夢を見てみるよ
あなたのように キラキラ輝ける人になりたいから
プラスマイナス一〇センチ
無難P
ひとりひとりが違うように 考え方も違う
ひとりひとりが違うように その人が持つ物差しの長さも違う
ひとりひとりが違うように 夢の形も違う
ひとりひとりが違うように 幸せの感じ方も違う
わたしの持つものさしでは 人の夢は図れない
わたしのものさしで 当てはめすぎると
わたしも苦しいし 相手も苦しい
そうかと言って 無関心でもいけない
わたしのものさしに プラスマイナス一〇センチ 付け加えよう
その考え方というものさしを 少しだけ伸び縮みして
少しでも近づけたらな いいかなって思う
全部は受け止めきれなくても 少しは力になれる
自分のものさしに プラス一〇センチ加えて
そばにいて 話を聞いて 相槌うって
少し辛そうなら マイナス一〇センチ ものさしを引いて
少し離れて 今はそっとしておこう
プラスマイナス一〇センチ 伸ばしたり 縮めたり
今はちょっとしか伸び縮みできないけど
もっと先には 巻尺みたいに 伸び縮みが自由で
広く見えるといいな~と思いながら
わたしは今日も ものさしで測るのです
家賃・礼金タダの家
無難P
サイドミラーに
住み着くクモ
ちゃんと許可は取ったのかい?
そう聞く前に 居留守を使う
図々しいと最初は腹も立つが
今は気になるお隣さん
正直言うと クモは嫌いだ
でも嫌いと言う理由で
彼の住処を ご退去願うのは
あまりに慈悲がない
私には私のじゆうがあるように
等しく彼にも自由がある
彼が飽きるまで
日当たり抜群・角部屋に住んでもらおう
ありがたく思えよ
家賃・礼金タダの家
思う存分 住むがいい